揮毫:有馬賴底師
【樂焼玉水美術館について】
当館は、長次郎焼(二代)、宗味焼(一代)、吉左衛門焼(二代)、その脇窯の弥兵衛焼(三代)・玉水焼(六代)の歴代作品四百点を収蔵する美術館です。二〇二一(令和三)年、弥兵衛焼の祖・楽 一元(享保七年没)の三百年遠忌、玉水焼研究家・保田憲司の五十回忌に合わせてオープンしました。
弥兵衛焼・玉水焼の系譜は、樂吉左衞門家四代・一入の庶子である楽一元(弥兵衛)から始まります。一元は京の町で楽焼を大量に製作し、その作品は当時の表千家・覚々斎や裏千家・六閑斎に、また後には、最々斎(竺叟)や一燈(又玄斎)、武者小路千家・直斎などに愛好されます。弥兵衛焼はその後、一元の二人の息子に受け継がれ、さらにその弟子が、山城国南部の玉水の地で継承し、「玉水焼」と呼ばれるようになります。
【「楽焼八世 初代 任土斎直翁」について】
弥兵衛焼3代の任土斎直翁(宝暦13年・1763年没)は名を弥兵衛といい、可悳【かとく】とも号しました。父は初代弥兵衛・一元(享保8年・1723年没)、兄は2代弥兵衛・一空(享保5年・1720年没)、兄が早世したため跡を継ぎました。父や兄と同じく長次郎写や光悦写の茶碗を焼きましたが、名工と謳われた父、天才肌の兄と比べると、作行にややむらがあっていささか劣るという評があります。
しかし、直翁は努力と挑戦の人でした。茶碗だけでなく、蓋置や香合などから風炉に至るまで、多種多様な作品を精力的に作りました。また、天才ではない分、工夫を重ねた人でした。普通、赤楽茶碗は赤土に透明釉を掛けます。本阿弥光悦は、白土に黄土を塗って透明釉を掛け赤い茶碗を作りました。それらに対し直翁は、白土に透明釉を掛けて焼きました。作品はほんのりと赤味を帯びますが、およそ透明感のある白色に焼きあがります。それまでにも白土に白釉を掛けた白楽はありましたが、直翁はそれを1歩進めて新しい白い楽焼を生み出したのです。これを直翁の白土赤楽と称します。
その他にも、仏事で鳴らす御輪【おりん】の形をした輪形【りんなり】茶碗も直翁が創始しました。また、置上香合を陶器で作るなど、精巧な細工物も得意でした。
このように、作域の広さと創意工夫が直翁の持ち味といえます。作行にむらがあるというのは、試行錯誤の跡ともいえ、父や兄に劣るという評は的を射たものではないかもしれません。
楽焼八世として、血筋を誇った直翁でしたが、なぜか生涯未婚で子がなく、長次郎以来の血脈(玉水焼系)は途絶えます。窯を継承したのは父の代からの門人であった玉水楽翁(玉水焼初代、伊縫氏、明和6年・1769年没)でしたが、楽翁以後の歴代が任土斎を称したことからも、初代任土斎というべき彼の功績の大きさが窺えます。
本展ではその作品を27点展示しています。実のところ、弥兵衛焼・玉水焼の歴代の細かな事績はほとんどわかっていません。直翁もその例に漏れませんが、展示品から努力と挑戦、そして創意工夫を感じ取り、その生涯に思いを馳せていただければ幸いです。
交趾写龍文大皿
楽 一元 造
共箱 鴻池家伝来 保田憲司 旧蔵
(今回は展示しておりません)
楽焼八世 初代 任土斎直翁
会期 : 2024年2月2日〔金〕~7月29日〔月〕
(休館日:不定休)
時間 : 9:30~17:30(受付は17:00まで)
料金 : 入館料300円(5人以上団体料金250円)
古田織部美術館(入館料500円)との共通券700円
住所 : 京都市上京区堀川通寺之内上ル東側(京都市上京区寺之内堅町688-2)
みやした 内 2階
【展示品目録】
No |
作品名 |
作者 |
箱書 |
銘・文句等 |
1 |
白土 赤楽 茶碗 |
楽 直翁 造 |
比喜多元達箱書 |
銘「村雨」 |
2 |
白土 赤楽 矢筈口水指 |
〃 |
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3 |
白土 赤楽茶碗 |
〃 |
賀茂季鷹 箱書 |
銘「若菜」 |
4 |
赤楽 細水指 |
〃 |
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5 |
白土 黄釉 筒茶碗 |
〃 |
共箱 |
「黄釉無類」 |
6 |
藤村庸軒好 飴釉 耳付水指 |
〃 |
中田疎軒箱書 |
銘「大名」 愈好斎宗守旧蔵 |
7 |
ノンコウ写 白土 赤楽茶碗 |
〃 |
共箱 |
保田憲司旧蔵 |
8 |
赤楽 寿老人形 大香炉 |
〃 |
共箱 |
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9 |
赤楽 大福茶碗 |
〃 |
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10 |
赤楽 狂言袴文 茶碗 |
〃 |
共箱 |
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11 |
長次郎釉 赤楽 筒茶碗 |
〃 |
共箱 保田憲司箱甲書 |
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12 |
赤楽 井戸形茶碗 |
〃 |
共箱 |
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13 |
白土 赤楽茶碗 |
〃 |
初代川上不白 箱書付 |
銘「播」 |
14 |
朱・黄釉 黒楽 筒茶碗 |
〃 |
共箱 |
「出来物也」 |
15 |
飴釉 櫛目文 芋子水指 |
〃 |
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16 |
黒楽 七宝彫 風炉 |
〃 |
真葛長造極 |
興福寺塔頭龍雲院什物 松平直興(孤円斎、出雲母里藩第8代藩主)旧蔵 |
17 |
素焼 鬼面風炉 |
〃 |
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18 |
黒楽 塩笥 筒茶碗 |
〃 |
共箱 鈴木宗閑箱書 |
銘「開山」 |
19 |
光悦写 黒楽茶碗 |
〃 |
共箱 堀内不仙斎 箱書付 |
銘「烏羽玉」 |
20 |
赤楽 柏皿 |
〃 |
共箱 |
十客 |
21 |
赤楽 小灰器 |
〃 |
共箱 |
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22 |
黒楽 茄子茶入 |
〃 |
共箱 |
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23 |
赤楽 三ツ葉蓋置 |
〃 |
共箱 |
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24 |
赤楽 長四方香合 |
〃 |
共箱 |
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25 |
赤楽 独楽形香合 |
〃 |
共箱 |
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26 |
白土 赤楽 菊置上 蛤香合 |
〃 |
共箱 |
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27 |
白土 赤楽 菊置上 蛤香合 |
〃 |
共箱 |
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・都合により展示品が変更になることがあります。