揮毫:有馬賴底師
【樂焼玉水美術館について】
当館は、長次郎焼(二代)、宗味焼(一代)、吉左衛門焼(二代)、その脇窯の弥兵衛焼(三代)・玉水焼(六代)の歴代作品四百点を収蔵する美術館です。二〇二一(令和三)年、弥兵衛焼の祖・楽 一元(享保七年没)の三百年遠忌、玉水焼研究家・保田憲司の五十回忌に合わせてオープンしました。
弥兵衛焼・玉水焼の系譜は、樂吉左衞門家四代・一入の庶子である楽一元(弥兵衛)から始まります。一元は京の町で楽焼を大量に製作し、その作品は当時の表千家・覚々斎や裏千家・六閑斎に、また後には、最々斎(竺叟)や一燈(又玄斎)、武者小路千家・直斎などに愛好されます。弥兵衛焼はその後、一元の二人の息子に受け継がれ、さらにその弟子が、山城国南部の玉水の地で継承し、「玉水焼」と呼ばれるようになります。
【「古楽 ~楽焼三代宗味と尼焼~」について】
数多い楽焼の作品のうちに、数は非常に少ないのですが、「尼焼」と呼ばれる一群の作品があります。狭義には、初代の長次郎の父、阿米也の妻、すなわち初代長次郎の母、系図には「比丘尼」と記される女性の手になる作品を、特にこの名で呼びます。比丘尼とは出家した女性、すなわち尼僧をさす普通名詞です。
また、楽家ではその後も、歴代の妻たちが作陶を試みています。2代の妻貞林、5代(楽家4代)一入の妻妙入、一入の庶子で弥兵衛焼初代一元の妻貞印、宗入以降の楽家歴代の妻などの作品が残っています。広い意味での「尼焼」には、これら歴代の妻たちの作品を含みます。
彼女たちはなぜ茶碗を焼いたのでしょうか。比丘尼の場合は、夫阿米也が亡くなった後の生活のためだったかも知れません。他の歴代の妻たちの場合は、ほとんどが夫の没後に作陶を始めていると思われるので(上記の名前はすべて法名と思われます)、亡き夫の供養の一環としての制作だったのかもしれません。今残る作品がすべて出家した女性の手になるものとすれば、「尼焼」という名称が、いかに適切なものなのかわかろうというものです。
いずれにせよ、彼女たちは、作陶の専門家ではありません。その作は朴訥で、時に稚拙でさえあります。しかし、見よう見まねで亡き夫の作風を再現しようとしているかのようで、見る者の心を打ちます。特に初期の「尼焼」、すなわち比丘尼の作と思われるものは、黒く艶のある飴釉が特徴ですが、夫である阿米也の作品はただの1点も残っていませんので、彼女の作を通して阿米也の作風が垣間見えるように思われます。
また、今回は「尼焼」に加え3代宗味の作も展示しています。宗味は利休に常に付き従っていた田中宗慶の子で、初めて吉左衛門を名乗った常慶の兄弟にあたります。
宗味の娘が初代長次郎の妻であったとされますが、彼も陶器の専門家ではありませんでした。しかし、宗味も工房で作業したらしく、少ないながらもその作が残っています。やはり、歴代の作には及ばない感はありますが、楽焼の草創期にあって、婿の初代長次郎の没後、孫の2代長次郎まで早世した中で、常慶とともに懸命に楽(田中)家を支えようとした気概のようなものが感じられます。
「尼焼」も宗味の作も、いわゆるセミプロに近い作域ですが、初期の楽焼を支え、彩りを加えている作品群です。どうぞお楽しみください。
交趾写龍文大皿
楽 一元 造
共箱 鴻池家伝来 保田憲司 旧蔵
(今回は展示しておりません)
古楽 ~楽焼三代宗味と尼焼~
会期 : 2023年7月29日〔土〕~2024年1月29日〔月〕
(休館日:日曜・祝日・年末年始)
時間 : 9:30~17:30(受付は17:00まで)
料金 : 入館料300円(5人以上団体料金250円)
古田織部美術館(入館料500円)との共通券700円
住所 : 京都市上京区堀川通寺之内上ル東側(京都市上京区寺之内堅町688-2)
みやした 内 2階
【展示品目録】
No |
作品名 |
作?者 |
箱 書 |
銘・文句等 |
時代 |
1 |
尼焼 黒楽茶碗 |
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江戸時代初~前期 |
2 |
〃 |
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宗吾 箱書 |
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江戸時代前~中期 |
3 |
〃 |
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「尼焼」印有 |
江戸時代中~後期 |
4 |
〃 |
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直斎宗守 箱書付 |
銘「夜の雨」 |
江戸時代初~前期 |
5 |
〃 |
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江戸時代前~中期 |
6 |
尼焼 赤楽茶碗 |
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江戸時代初~前期 |
7 |
〃 |
楽 貞印(6代一元妻、妙入)造 |
一燈宗室 箱書付 |
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江戸時代中期 |
8 |
黒楽茶碗 |
3代田中宗味 造 |
覚々斎宗左 箱書付 |
銘「頭巾」 |
江戸時代初~前期 |
9 |
〃 |
〃 |
樂 旦入 極 |
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〃 |
10 |
〃 |
〃 |
覚々斎宗左 箱書付 |
銘「残雪」 |
〃 |
11 |
赤楽茶碗 |
〃 |
〃 |
銘「旅宿」 |
〃 |
12 |
黒楽茶碗 |
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江戸時代前~中期 |
13 |
〃 |
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〃 |
14 |
〃 |
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〃 |
15 |
〃 |
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〃 |
16 |
〃 |
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〃 |
17 |
黒楽 小鉢 |
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〃 |
18 |
赤楽 筒茶碗 |
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〃 |
19 |
赤楽 筒茶碗(小振) |
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〃 |
20 |
赤楽 茶碗(小振) |
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〃 |
21 |
赤楽 馬盥形茶碗 |
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〃 |
22 |
〃 |
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〃 |
23 |
赤楽 菊花形 皿 |
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〃 |
24 |
赤楽茶碗 |
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〃 |
25 |
〃 |
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〃 |
26 |
赤楽 筒茶碗 |
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〃 |
27 |
利休七種「検校」写 赤楽茶碗 |
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〃 |
28 |
赤楽 片口 小鉢 |
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〃 |
29 |
『道楽流 楽焼秘伝抄』 |
半閑斎 著 |
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写本 |
江戸時代中期 |
・都合により展示品が変更になることがあります。